2021年10月14日木曜日

癌 4

困った兄だったが、とにかく手術は成功して欲しい。一旦は家に帰らせてやりたい。それで何日持つか知れないが、僅かでも最後の日々を自宅で過ごさせてやりたい。

兄は遠からず自分が死にゆく身であることを知らない。知らない方が良いのだ。教えて何になる。兄はなんでも都合の良いようにしか考えない。幼なかった頃からずっとそうだった。心配性の私とは正反対だった。胃潰瘍としか伝えねば、手術が終わったら問題は解決したと思い込む。それで気楽に何日かは生きる。それで良いのだった。

何年も前に父は亡くなっている。散歩中に倒れた。脳卒中だった。兄は父に、半ば無理やりに家業を強いられ、冴えない家業を手伝っていた。事業は回らず、何年やっても楽にならず、兄の人生は崩れた。いつの頃からかパチンコや競馬など、かけ事にのめり込むようになった。元々身勝手な部分のある性格だったが、崩れるのも理解できないことではなかった。

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