私はついそのような感想を持ったが、彼に言わせると、実は違うと言う。私はこのタイプの人を、恐らく自信過剰なのだと思っていた。だがそうではないと彼は言う。
「元は劣等感さ」
不快さを鼻息で飛ばすような言い方だ。劣等感が逆に出ると言うのだ。
私はちょっと小首を傾げた。
「そうかな、劣等感があったら自信家になれないのじゃないかね」
「お前ならそうかも知れん、だがちょっと子供の頃のことを思い出したら直ぐにハハーンと来るぜ」
ああ、なるほど。自分より褒められる人間が気に入らなくてしょうがない。自分より上に居る奴が憎い。確かにそう言うことはあった。それが正当でも認められない。だから機会があれば自分より凄い人の評価を下げようとする。子供の頃は元より、大人になってもすっかり消えることはない。
「その、劣等感の相手がお前だというのだな」
「この場合はね、でもそれは大して重要じゃない、こういう人はきっかけを作った人間の誰にでも噛みつく」
そしてその切っ掛けは、彼が一般論として記した周辺の絵描きに関する苦言だった。画家の大半はお説を持っていてそれを得意げにしゃべることが多い。中には堂々と他を批判している人も居る。それが彼には不快だった。元々彼はそのタイプが嫌いなのだ。程々にしませんかというような記事を書いたことがあるらしい。
この人は自分が教える側に回っているのにどうみても自分が素人の域を出ていないことを自分で知っている。自分の中ではそれが鬱屈している。教える側なので要らぬ背伸びもしなければならない。先生としての立場があるから、出来の悪い絵でも、絵は上手い下手ではないと、もっともらしい言葉で誤魔化さねばならない。それがドロドロと絡んで解きようのないまでになっている。
「ふーん、そうかなあ…」
そう言う解釈は私には少々人が好過ぎるように思えた。私には、もっと救いようのない邪鬼のようなものをこの場合感じるのだ。
2022年9月27日火曜日
粘着質--10
2022年9月7日水曜日
春雨バーガー 12
例えば鯖には、ごく普通に寄生虫があって、例外はない。探さねば見えないが普通に鯖缶にも入っているらしい。私は塩焼きなら食べるが、それ以外は苦手だ。家族は普通に酢で締めて食べるが私は食べなかった。元々生が苦手だが、酢で締めないと虫が居るからと誰かに聞いたことがあったからだ。酢につけても虫は死なない奴も居るのじゃないか。
こんなだから、死んでさえいればあまり虫を気にしないのかも知れない。しかし私は嫌だ。辛うじて焼き魚が食べられるだけだ。それにこんなデカイ虫が居るのか。それは普通に見かける春雨より太い。煮られて茶色っぽく変色しているが、明らかに虫だ。箸で摘まみ上げるまでもない。
一気に気分が悪くなった。戻しかけたがどうにか抑えた。素早く金を払って出ようとした。
「あら、どうしたの」
女将が不審そうに尋ねたが、急用を思い出したと言ってそのまま店を出た。ちょっと行ったところで路地を見つけて隠れた。沿うように流れている排水路に口に残っている物を吐き出した。
それにしても、あちこち虫ばかりだ。いったいなんだと言うのか。
呟きながら更に行って自販機を見つけ、苦そうなお茶を出してうがいをした。お茶が良いような気がした。
衣がないから分かったのだ。フライだったらわからない。うっかり食堂にも入れない。
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