「だけどよ、なんて訊けばいいんだ」
「いいよ、俺が訊くから」
「まあそうだ、他所から来た俺が訊いても今ひとつ分からんな」
Мはへっへっへと笑った。その笑い顔をチラッと見て、私はふと思った。だいたいこの男とはそんなに親しい訳ではない。親しくはあるが普段付き合いがある程度だ。私が呼んだからとてМが何故こんな辺鄙なところにまで来てくれたのか。物好きと言えば物好きだ。
だが人の付き合いにはそういうことが普通にある。ある集まりで一緒になって、遅くなったから泊めてもらって風呂にまで入れてもらったのに、会ったのはその一度だけ。そんな人もある。それを考えればこれは普通の成り行きだろう。
コンビニの前に来た。道路を渡って何の気なしに私が先に入ったがМは外に立って上を見上げている。なにか珍しい物でも見つけたのかと思い一旦外に出た。
「なにみてんだ」
彼は黙って指さした。
「ペンキの看板だな、今時珍しいな」
「そうじゃねえよ」
「なんだいったい」
「看板の周りに蔓のようなものが見えたんだがな、お前が店に入ったらスッと引っ込んだような気がしたんだ」
「どの辺だ」
「どの辺てことはないんだが、あちこちで…」
私は看板のあちこちを眺めた。特に変わった様子はないが店の名前は変だった。MUSHIZUとかいてある。
「ムシズなんて変な名前だな」
Мはまだ看板のあちこちを眺めていた。私は更に言った。
「こんな名前のコンビニチェーンなんてあったか」
彼は首を傾げた。「知らん」
しょうがなく私は催促して彼を引っ張るようにして再度店に入った。
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