「それにしても食べもの屋のない町だな」
呆れるようにМは言った。
「多分外食する人間が居ないんだろう、その必要もなさそうだし」
ここに居る人間は皆自分の家で食事をする。外では食べない。田舎はそういうものだ。
「だけどよ、昔の話だろうそれは」
「経営が成り立たないんだよ」
と言いつつ自分でも変だと私は思った。駅前にはバーガーショップがあり、とにかく食堂にも入ったのだ。あることはある。だが流行っている気配はない。やっぱり少ないのだ。
「変じゃないかお前、自分で思い出さないのか、日頃何を喰ってるのか」
「日常のことなんかいちいち覚えているものか」
「そんな奴があるか」
そんなことを喋りながら歩いていると知らないところへ出てしまった。
「引き返そう、この辺は知らない」
「あまり町を歩かないのか」
「散歩くらいするがな、この辺は知らない」
Мは無言だった。私の受け答えが変なのですこし考えているようだった。
しばらく歩いたが、戻っているはずなのに知らない風景が続く。不安になった。
「変だな、道が分からなくなったぞ」
「大丈夫かお前、来た道を戻っているだけじゃないか」
「うん、そのはずなんだが…」
歩いている道は、片方が小山の斜面。何の役にも立たない雑木が生えている。反対側は畑だ。何気に歩いている時は風景など細かく観察しない。暗くなっているし、だから覚えていないのだ。畑の向こうに道路があって車が走っている。コンビニと思しき明かりが見えた。
「あそこで何か買って帰ろう、道はそこで訊いてみよう」
Мがそういうので、何とはなしに同意した。
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