まだそんなに腹は空いていないから、散歩のついでに、適当な店があったら入ろうという考えていた。しかし営業しているように見えた食堂はどこも閉鎖されていた。道々発見する割と新しく見える店もとっくに営業していないようだった。Мは笑った。
「お前、どうやって飯食ってたんだ。自炊はしていないんだろう」
そう言われるとそうだ。俺はどこで何を喰ってたんだろう。きっとコンビニで何か買ってたんだ。なんだかよく覚えていない。でも普通の人間でも昨日何を食べたかなんて覚えていないのが普通だ。別にどうってことない。
「そうだけどよ、やっぱり変だぜ。何喰ったかは覚えてなくてもどこで食べたかくらいは覚えているもんよ。いつも行く店とかさ」
「いや、だからこのまえはあそこでプリ定食を…」
と言いかけて私は黙った。あの店は初めてなのだ。じゃあ日常の食事はどうしていたのか。それを言われれば自分でも不思議だ。
「まあ、しばらく歩いてみよう。そんなんじゃ町を歩いたこともあまりないんだろ。たまには散歩しろよ」
「散歩は嫌いじゃない」
「だろ、ちょっと気分を変えろ。お前、ちょっと心身面で疲れているんじゃないかね」
別に何かがストレスとかもない。何かが心配で眠れないとかもない。ちょっと首を捻りながら私は答えた。
「別にそんな気もしないがな」
「だから、ああいうのは気付かない内にストレスが溜まるんだ。気を付けた方が良いぜ」
そうかも知れないと思った。振り返ってみるとこの町へ来てからちょっとばかり変だと思わぬこともない。記憶が錯綜しているというか、何だか半分夢を見ているような気もする。
そんなことを言いつつ二人でトボトボと歩いた。日が傾いてきた。眼に入る光景は何も面白くない。民家とも倉庫ともつかぬ建物が適当に並んで街を形成している。殺風景を絵に描いたような町だ。
こんな町だったかなと、私は思った。