坂の途中まで来てふと立ち止まった。道の両側に古いとも新しいとも言えぬ面白みのない民家やアパートが並んでいる。どれも個性のないマッチ箱のような建物だ。物成りがありそうに見えない荒れた畑の間に、それらがあるところでは並びあるところではポツンと点在している。田舎情緒もなく近代的でもない、歩いているだけで退屈しそうな殺風景なこの町に何故越して来たいと思っただろうか。
空の雰囲気がいつもと違うなあ…薄曇りの空を眺めて、ちょっと違和感を持った。風景が墨っぽいと言うか粉混じりと言うか、なんとなくそんな気がするのだった。少し煙っているのかも知れない。でも、越してきたときの雰囲気はこんなではなかった気がする。
そんなことを思ってもしょうがないが、先程のことがあったせいか、きょうはちょっと変なのかも知れない。単にいつもとコンディションが違っているのだろう。そう思ってまた歩く。距離は大したことないが、駅に近いマーケットまで毎日買い物に歩くのは大変だ。今までは何とかしてきたが、そのうち自転車でも買おう、安物で良いのだが、値段はどれくらいするのだろうか、あれこれと考えつつ、周辺を背の高い雑草に囲まれた一角に辿り着いた。
2021年9月30日木曜日
春雨バーガー 4
2021年9月29日水曜日
春雨バーガー 3
袋からもう一度バーガーを取り出して、かじった部分をしばし眺めた。噛みちぎった春雨の一部が伸びて垂れさがっていたはずが、なかった。縮んでしまったのか。
不思議にも思いつつ突っ立っていると、女性が気付いてこちらを振り向いた。手には寄生虫と思しきが絡んだままの器具を持ったままだ。横に二人ほど居たいずれも男性が、女性に連られる様にさっと私の方を見た。
慌てて私は視線を外した。まずい、もしかして秘密のようなものを見たかも知れない。バーガーを咄嗟に袋にしまって、そのまま急ぎ足で自宅に向かって歩いた。そうだその辺の自販機でドリンクを出して口を漱ごう。そう思ったが、記憶にある場所に自販機がない。どうして、ここにあったはずなのに…。
しょうがない。歩を速めて緩い坂道を上った。自宅は畑やありきたりな民家が並ぶ殺風景な生活道路をしばらく上ったところにあるこれまた古いアパートだ。まだ越してきてあまり経たない。
2021年9月28日火曜日
春雨バーガー 2
しかし口の中にひとっかじり入っている。しょうがないからそれだけは無理やり飲み込んで袋の口をねじってぶら下げて、路地をそのまま行こうとしつつふと思いだす。このバーガー屋は以前コンビニだったはずだ。いつの間に変わったのだろう。
路地の右手、つまりバーガー屋の真裏は駐車場になっているが、本来は殺風景な空き地だ。隅に家が一軒建っていて何人か家の前に出ている。目をやると、白い飼い犬を囲んで何かしている。
普通に撫でてやったりしているのかと思ったが、一人の女性が犬の耳に何かをねじ込んで居る気配だ。薬でも塗っているのだろうと思っていたら、女性はサッと腕を抜くようにすると、ピンセットのような器具とその先に紐のようなものがぶら下がって出てくるのが見えた。
紐は黒っぽくて動いている。もしかしたら寄生虫だろうか。そいつは器具に巻き付いて、その動き方が如何にもだった。
たった今食べた春雨バーガーが、急に気味悪くなって戻しそうになった。
春雨バーガー 1
駅前に見慣れぬバーガーショップがいきなり現れた。こんな店あったかなと思った。記憶に全然ないので不思議だった。でもちょっと食べてみたくなった。
金額は忘れた。適当な値段だったと思う。袋をもらって外へ出た。アパートへ帰る道々、歩きながら食べようと思った。
店を出ると直ぐ右の壁に沿って路地がある。ひと口かぶりついて路地に入りかかったが、食感が変だと思った。噛むのを止めて、噛んだ後の自分の歯型を眺めた。黒い半透明のプニョプニョした麺状のものが垂れている。
ふと壁の上方を見ると、ここにも店の看板があった。絵入りで、特性春雨バーガーとなっている。絵には春雨は描かれていない。
「春雨?」
妙なものを作ると思った。しかし春雨なら、そんなバーガーもあるかも知れぬと納得しかかった。しかしなんだか食べる気がしなくなった。そのつもりでない味がしたら、どんなものでも戸惑うのだが。