2021年10月10日日曜日

癌 3

胃潰瘍の再発だと、兄にはそう説明した。本当のことを言ってもしょうがない。それを受け止めてどうのこうのという性格じゃない。自己管理のできない自堕落な暮らしを続けて、ついには私の元に転がり込んできて、その後は居候のような生活を続けていた。兄の借金を私が肩代わりしたような身の上で、遺産もなどあろうはずもない。今更この兄から遺言されることなどなにもない。実際まったく、心配事ばかりの厄介な兄だった。半年持たないで死んで行くそんな兄には、もう余計なことを言わずに、多少でも気楽な気持ちのまま逝かせてやれば良いのだった。

「悪くなっている部分を切るんだ」 手術の説明をした。医者からのあれこれは私が聞いたが、細かいことは伝えなかった。

ほーんと言う顔で兄は聞いていた。またやるのか、面倒くさいこっちゃとうんざりした顔を浮かべた。入院室のベッドに横になってぼーっと窓を眺めていた。ポツンと、いつ出られるのかと訊くから、そんなにかからないらしいとだけ答えた。

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