2021年10月9日土曜日

癌 2

「癌だね、癌」

ある程度の予想はしていた。しかしまさかとも思った。医者は続けた。

「年は越せないね。これじゃ三か月か、長くても四か月」

そんなに急なのか、いままで曲がりなりにも普通に暮らしていた。食事だってできていた。変だと言い始めてから二週間も経っていない。

医者は写真を見せた。

「幽門ね、ここがもう詰まっちゃって…」

見せられるとそうかと思う。初めて胃の内部を見る人間に何がどうとも分からないが、確かに随分腫れていて、本来あるはずの穴が塞がってしまっているようだ。

「とにかくこれを切って、一度は帰えれるけど、自宅で何日過ごせるかは分からない」

私は写真を見ながら黙っていた。

「お兄さんに説明する?こっちでしようか」

私は黙って首を振った。兄にはもうやらねばならないことなど何もなかった。何もしない人間だった。言って覚悟を決めてもらうことなど何もなかった。

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