「癌だね、癌」
ある程度の予想はしていた。しかしまさかとも思った。医者は続けた。
「年は越せないね。これじゃ三か月か、長くても四か月」
そんなに急なのか、いままで曲がりなりにも普通に暮らしていた。食事だってできていた。変だと言い始めてから二週間も経っていない。
医者は写真を見せた。
「幽門ね、ここがもう詰まっちゃって…」
見せられるとそうかと思う。初めて胃の内部を見る人間に何がどうとも分からないが、確かに随分腫れていて、本来あるはずの穴が塞がってしまっているようだ。
「とにかくこれを切って、一度は帰えれるけど、自宅で何日過ごせるかは分からない」
私は写真を見ながら黙っていた。
「お兄さんに説明する?こっちでしようか」
私は黙って首を振った。兄にはもうやらねばならないことなど何もなかった。何もしない人間だった。言って覚悟を決めてもらうことなど何もなかった。
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