2022年3月12日土曜日

トイレ--1

「その…、隣りの爺さんは一日家に居たのかい」

「そうみたい、爺さんだからもう仕事はしていなかったのだろうって」

知り合いの女性沙保里とのちょっとした世間話だった。沙保里の知り合いの話をまた聞きしている。聞くところによると、その女性は今も両親が住んでいる郊外の一戸建て住宅で生まれた。いわゆるバブルが弾けて、さらに年を経るごとにどんどん住宅が値下がりして、そんな時、若い両親が住まいを探して歩いた。

中古だったがようやく適当な物件を見つけた。都内のアパートに住んでいることと比べたら、凡そ毎月の支払いが半分近くになって住宅が持てた。一応は隣近所の雰囲気なども調べて、問題になるようなことは何もないように見えた。少なくともその時は。 

 やがて女性が生まれた。一人娘だ。大事に育てられ、高校まで地元の学校に通ったが中学生の頃には近所でもちょっと見ない可愛い娘になっていたらしい。 

 「今でも美人なんだ」

 「そりゃまあ、悔しいけど私よりはね」と沙保里はひと区切りして「でも、ちょっと気の毒な生まれよね、痴漢に遭ったこともあるし」と言った。美人なら一つ二つはそういうこともあるかも知れない。 

 「彼女、子供の内はあまり気にしなかったそうだけど」 

中学生になったころ、そろそろ隣りのオヤジが気になりだしたというのだ。

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