確かに、ステーキに虫が混入していたなど聞いたことがない。でも、だからって今日はステーキを食べる気になれない。たらふく食べる心境にないのだ。
「食べなきゃ死んじまうんだぜ」
「分かってるよそんなこと」
「じゃあ行こう。とにかく長いものを遠ざける訳だな。ラーメンうどんの類はやめて、野菜のてんぷら定食なんかだったらどうだ」
「別にそんなに神経質になっている訳じゃないよ。ただ、どうして立て続けにと思うだけさ」
「物事は、起きる時には重なるのさ。ほれ、飛行機事故なんかそうだろ」
彼はそう言って確率の片寄りなどというお説をひとしきりぶつのだった。何度も聞いた。サイコロ六回を振って綺麗に確率が散らばることはない。必ず同じ数字が出る。 そんなことから宝くじを当てる方法も考えたらしいが、当たったことは一度もない。
ブラブラと二人で歩いた。辺鄙な田舎町だから食堂などいくらもありはしない。駅前にファミレスのひとつもない。人々の多くは自宅で食事をするだろう。そう言う町だ。それでどうして食堂があるのか、むしろ不思議なくらいだった。
「でもよ、駅前にバーガーショップがあるじゃん」
「そりゃそうだけど」
「店があるってことは需要もあるんだ。お前は越してきたばかりで町を知らないんだよ」
しかし私は、あの店はきっと長く持たないと思った。春雨バーガーなんか、どんなもの好きが食べるのか。
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