2021年11月20日土曜日

春雨バーガー 10

「今だったら、ブリの照り焼きが早いよ」

女将はいきなりそう言った。早いよと言うより、それにしろと言っている風に聞こえた。しかもある程度の強制を含んでいる。

しょうがなかった。

「あ、そう、じゃそれで…」

この店構えでブリの照り焼き。いったいどんなものが出てくるのか。失敗したと思った。ちょっと怖くもあった。なにしろ女将のご面相がなんとも。衛生面で大丈夫なのか。

待つ間、適当に雑誌を手に取って読んでいるふりをした。動揺のカモフラージュだった。少し落ち着けば。

女将は、なにやらガチャガチャとやっていたと思ったら、間もなくカウンターのせり上がりにあれこれを置き始めた。

「悪いけど取って…」

言われて私は立って手を伸ばし、ごはんとみそ汁を両手に持とうとした。

「一個ずつ持って一個ずつ。味噌汁熱いよ、落とすといかんからね」

言われるままにした。この女将には逆らえない雰囲気がある。確かに味噌汁は熱いから、危ないこともある。

ごはんも味噌汁も一般より大きな器に入っている。そういう店なのだろう。最後に乗せられた皿を両手で運んだが、これも大きい。ブリのボリュームもあるが、照り焼きと言うより煮物の雰囲気だった。しかしそれでも覚悟したものよりは上出来だった。

「マシかも…」

腹の中でそう思った。

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