「今だったら、ブリの照り焼きが早いよ」
女将はいきなりそう言った。早いよと言うより、それにしろと言っている風に聞こえた。しかもある程度の強制を含んでいる。
しょうがなかった。
「あ、そう、じゃそれで…」
この店構えでブリの照り焼き。いったいどんなものが出てくるのか。失敗したと思った。ちょっと怖くもあった。なにしろ女将のご面相がなんとも。衛生面で大丈夫なのか。
待つ間、適当に雑誌を手に取って読んでいるふりをした。動揺のカモフラージュだった。少し落ち着けば。
女将は、なにやらガチャガチャとやっていたと思ったら、間もなくカウンターのせり上がりにあれこれを置き始めた。
「悪いけど取って…」
言われて私は立って手を伸ばし、ごはんとみそ汁を両手に持とうとした。
「一個ずつ持って一個ずつ。味噌汁熱いよ、落とすといかんからね」
言われるままにした。この女将には逆らえない雰囲気がある。確かに味噌汁は熱いから、危ないこともある。
ごはんも味噌汁も一般より大きな器に入っている。そういう店なのだろう。最後に乗せられた皿を両手で運んだが、これも大きい。ブリのボリュームもあるが、照り焼きと言うより煮物の雰囲気だった。しかしそれでも覚悟したものよりは上出来だった。
「マシかも…」
腹の中でそう思った。
2021年11月20日土曜日
春雨バーガー 10
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