2023年8月19日土曜日

癌--13

兄はまだ自分が死に行く身であることを知らない。薄々感じてはいるが知らないふりをしているのかも知れないし信じたくないのかも知れない。元々兄は己に都合の悪いこととかは考えない性格だった。

ぼんやりこの兄のことを考える。決して仲の良い兄弟じゃなかった。どころか、歳が離れているので共有できることが少なくて、仲よく遊んだ記憶があまりない。遊んでいても虫の居所がちょっと悪ければ八つ当たりされたりが毎日だった。性格は全くの小姑で、私がある年齢に達するまでは毎日嫌なことを仕掛けてくる変なものでしかなかった。

半面学業は割とできて、学校や教師からの評価も高かった。一方私はまるで出来損ないで、親は二人とも蔑視線を私に向けていたように思う。特に母が私を叱る時は何故と思う程の憎悪の表情だった。今思い出してもどうしてあれ程顔を歪めていたのか、その理由を私は知らない。軍隊上がりの父は父で、異様な程乱暴だったことがある。一人が私を叱れば三人が一緒になることが多かった。

嫌な兄だったがとにかく学業はできた。大学にもすんなり進学して順風に見えたその兄が、途中までは自分の志はあったろうが、崩れた。身を持ち崩したのだ。


0 件のコメント:

コメントを投稿